研究テーマ
非破壊パルスマグネットの開発
強磁場発生の鍵は、ジュール熱による温度上昇と磁場発生に伴う電磁応力の影響を抑え込み、如何にしてコイルの破壊を防ぐかにあります。温度上昇の問題は、前世紀初頭に考案されたパルスマグネットの導入によってずいぶんと軽減されました。パルスマグネットとは聞き慣れない言葉ですが、蓄積されたエネルギーを瞬時にコイルに放電することにより、短時間にパルス状の磁場を発生することのできるマグネットのことで、発熱を抑えることの出来る画期的な発明です。一方、電磁応力の問題はもう少し深刻で、マグネットを破壊せずに限りなく大きな磁場を発生することは出来ないことが分かっています。金道研究室では、この強磁場の限界を少しでも広げ、より強い磁場を用いた研究を行うための非破壊型パルスマグネットの開発を進めており、独自に設計、製作したマグネットにより世界最高の強磁場発生に成功しました。 現在では、このように開発されたマグネットを次項目で述べるような最新の物性測定へと応用しています。具体的には、磁化、輸送現象(磁気抵抗、ホール抵抗)などを減圧ヘリウム温度1.3K、60Tの範囲で行うことができます。特に、磁化と輸送現象の測定に関しては最高磁場75Tまでのオプションも利用可能です。また、高圧セルや希釈冷凍機と組み合わせることによって超高圧および極低温との複合極限環境の生成が可能となっており、複合極限条件下の物性研究を進めています。
低次元磁性体の強磁場磁化測定
磁性を担うスピンが交換相互作用により三次元的なネットワークを形成している通常の磁性体では、多くの場合そのスピンを古典的なベクトルとして取り扱うことでその性質をうまく記述することが出来ます。しかし、スピン量子数が小さくかつ特定の方向に強い相互作用を持った低次元磁性体では、非常に強い量子ゆらぎのため直感的には理解できないような特異な状態が実現していることが最近の研究で明らかになってきました。我々は、量子効果が顕著に現れる極低温下において低次元磁性体の磁化過程を精密に測定することで、その基底状態や強磁場中で現れる磁化プラトーについて研究しています。
強相関電子系の強磁場物性
通常の金属ではその電気伝導の担い手である電子は結晶内を比較的自由に運動することができます。しかし磁性体内部では、伝導電子自身のもつスピン磁気モーメントと格子点上に局在した磁気モーメントとの相互作用により電子は強く磁性イオンに束縛されるため、見かけ上の電子質量が大きくなる(重い電子状態)といった興味深い現象が起こります。広く意味での強相関電子系には、上記の重い電子系以外にも高温超伝導体や金属ー絶縁体転移を示す遷移金属化合物など、多彩な物理現象を示す多くの物質群が含まれています。強磁場はそれら強相関に起因する現象を二次的に制御することが可能な外場であるため、強磁場物性を研究することで現象解明へとつながるものと期待されています。