研究室の概要

 この世に磁石でないモノはありません。すべての物質を構成する原子そしてその中にある原子核・電子は、強さの違いはあるもののそれ自体磁石としての性質を備えています。このような性質を磁性、また磁性を示す物質を磁性体と呼びます。非常に大きなものでは地球自体も磁性体であり、身近なところではあなたが生きていく上で欠かすことのできない酸素も磁性体です。さらにあなたの脳が活動する際に神経を通して流れる電流も磁性体としての性質を持っています。通常、それ単体でも強い磁性を示すもの(強磁性体)を磁石と呼ぶのが一般的です。ご家庭の冷蔵庫には必ずレシピなどを止めているかわいい磁石がありますよね。しかし磁性が微弱であるためその性質があらわになっていない場合でも、非常に強い磁石の作る場(強磁場)の中に置く事によって、その磁性を引き出す事が可能です。強磁場はこの時、物質の磁性を詳しく見るための顕微鏡や望遠鏡の役割を担います。また時には強磁場は観察者の目としての役割を越え、物質の性質そのものを変えることもあります。

 金道研究室は、パルス強磁場という特殊な磁場発生法を用いて、世界最高レベルの強い磁場を発生する事が可能な電磁石(電気が流れたときだけ磁石になる)、つまり世界最強の非破壊パルスマグネットの開発を本気で行っている日本で唯一の研究室です。そしてこの電磁石が作る非常に強い磁場の中で、物質が磁化していく様子やそれに伴う構造変化といった基礎的な物性を測定することにより、未知なる物理現象の探索そしてその発現機構の解明を行っています。
 
 最後に、温度を基準に相互作用するエネルギーと磁場の大きさについて考えてみます。絶対温度での1ケルビンは磁場の強さでおおよそ1テスラに対応します。ということは、室温(絶対温度約300ケルビン)で起こる現象を制御するためには、300テスラという非常に強い磁場が必要です。現在我々のパルスマグネットで発生可能な磁場の大きさは約80テスラですが、この限界を少しでも広げることにより未知の領域での研究が可能となり、新しい物理現象の発見・解明につながると期待されています。